【本】ヴィーナスの鏡を知っていますか

私が所有していない、彼の日常の大部分の時間、彼と一緒にいるのは、この幻想の「伊保子」だ。女性脳から見たら、あきらかに幻想の「伊保子」なのだが、これが男性脳の現実なのである。

あなたの恋人の脳の中にも、幻想の「あなた」が存在している。彼らは、日常のさまざまな隙間の時間に、この幻想の恋人に「触れている」のだ。

目の前の現実のあなたが、今宵、上機嫌でしっとりとしていれば、彼らの脳の幻想の「あなた」は、すこぶる美人になって、よっぽどひどい電話でもかけなければ、次に逢うまでその美人度はキープされるのである。

長いしゃべりことばを認識するのが不得意で、空間のシーンをつなげて勝手に幻想を作り上げる男性脳は、あなたの愚痴なんか聞いちゃいないのである。あなたの「愚痴を言う、卑しい口元」を見ているのだ。愚痴を言えば言うほど、彼の脳裏の幻想の「あなた」がブスになる。恨みがましい目の、うっとうしい女になってゆく。

そう考えれば、やっと連絡がついた彼の電話に、どんな声を出してあげればいいかがわかってくるはずである。不機嫌な声で、ここまで放っておかれた悲しみを伝えたいのは、よくわかる。よくわかるけど、それをしてしまったら、幻想の「あなた」は、ますます酷くなるよ。

こういうときこそ、「忙しかったみたいね、からだは大丈夫?」と、ふっくらした優しい声をプレゼントしよう。彼のためじゃなくて、彼の中の、幻想の「自分」のために。

恋人の中に、幻想の「私」がいる。

この気づきは、恋愛における、もっとも重要な魔法だと思う。

その「私」を、どう愛らしい妖精に育てるか、そう考えるだけで、恋人に対する言動のすべてが、自然と変わってくる。そうすれば、恋人が、まさに魔法にかけられたように変わるのである。

私の大好きなひとは、逢えば最初に

「私に逢えて、嬉しい?」「もちろん、嬉しいよ」

を、必ず言わされることになっている。

あなた自身が清らかに満たされれば、大切なひとの幻想の「あなた」が爽やかになる。不思議なことのようだけど、顕在脳と潜在脳のイメージ構造は、こうなっている。

すなわち、自分のあり方を、清らかに保つこと。

整えられた部屋に住み、心をかけた食事を採り、そばに置く本と音楽を吟味する。身に付けるものは、できるだけ素材のいいものを心がける。

誰も見ていないプライベートな空間で、こんななんでもないことを積み重ねると、オーラの爽やかなひとになるのである。颯爽と歩かなくても、爽やかに微笑まなくても。

自分が、なぜか他人に軽んじられてしまう傾向があると思ったら、自分に降り積もる日常時間の質を考えてみよう。

発話の最初の、ほんの少しのためらい、戸惑い、はにかみ、である。時間にして一秒足らず。その後の三語までを、少しゆっくり発音する。

女性脳は、「時間」に感応する脳なのである。時間をかけ、手をかけて、大切にされることを切望している。と同時に、モノにかけられた手間隙の時間を感じる脳なのである。

手のかけられた食べ物、丁寧に作られた服やバッグ、靴や家具。私たちの脳は、それらの「蓄積時間」を感じるのだ。もちろん自然の中で育まれるものは、その時間も含まれる。

私たちの女性脳は、大切に育まれた本物を身に付けることで、自分自身が大切にされているのと同じ満足感を得られるのである(!)。驚いた?

女の愛情は日々揺らぐが、男の愛情はゆるがない。低値安定で、ずっと変わらないのである。男は、一度深い仲になった女の再評価を、日々してなんかいないのである。女が十分おきにしているそれを、一生のうち、三度くらいしかしないんじゃないかな。

男が、ずっと淡々と繰り返しているものがあれば、女は安心していていい。毎日の帰宅か、毎月の生活費か、折々のデートやメール。それが続いている限り、彼らは私たちを愛しているのだ。

顕在脳が「こうあるべき」と腹をたてると、潜在脳は、そうしてもらえない自分を卑下するのだ。腹を立てれば立てるほど、あなたは深層心理で卑屈になっていくのである。

潜在意識が、あなたを愛するようにならなくては。あなたの潜在脳が、あなた自身を優しく見守っている。それこそが自尊心の源なのだもの。

三ヶ月も経てば、あなたの中に、美しい自尊心が真珠のように照り輝いているのを発見するだろう。「男の潜在脳に、美しい理想像を結ばせる魔法」は、同時に「女の潜在脳にも、美しい自画像を結ばせる:のである。

その自画像は、常にやわらかくあなた自身を照らしてくれる。自尊心の誕生である。

惚れた男と末永くあるてゆくためには、やっぱり、「わかりやすい、繰り返しの、終わりのない責務」を与えないとね。

メインの表情に、逆の表情が加わってできる綻び、その綻びの周囲にできる靄。これが官能である。

あなたが前向きな女なら、心底へこたれたとき、あなたが論理的な女なら、混乱してどうしていいか分からないとき、逆にとっ散らかった女なら、なぜか頭がすっきり理路整然としたとき。綻びができて、官能の靄が立ち上がる。

そのいのちがけの綻びの瞬間に居合わせて、あなたの官能にからめとられた男なら、それが運命の男なのである。

自分を大切にすること。

そして、男性、女性の違いを理解して相手に向き合うこと。